May 02, 2005

最初で最後の日本開催!「ラ・トゥール」展

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LaTour

 

上野の国立西洋美術館で開催されている「ジョルジュ・ド・ラ・トゥール - 光と闇の世界」展へ行ってきました。

 

ジョルジュ・ド・ラ・トゥールは17世紀のフランス東部ロレーヌの画家で、現存する真作と認められている作品はわずか40点ほど(フェルメールよりやや多いですね)。250年もの間、歴史の中に埋もれていましたが、1915年にドイツの美術史家が歴史の闇の中からよみがえらせ、1997年のパリでの大回顧展では53万人がつめかけ個展の入場者の記録をぬりかえたそうです。いまやフランスの国宝、フランスのファルメールと呼ばれるほどの評価を受けていますが、日本では一般的に知られていません。同時代のレンブラントやベラスケスのように知名度が高くないのは、残された作品が極めて少ないことと、その生涯が不明の点が多いため、人目をひくエピソードが少ないことが原因なのでしょう。

 

彼の絵画の特徴は、この展覧会のタイトルにもなっている、光と闇のコントラスト。特に、蝋燭などの光によって暗闇から浮き上がる人物の表情が暗闇との絶妙の対比を見せる彼の画風は、「夜の情景」と呼ばれており、カラバッジョの影響を強く受けているものです。

ただ、卓越した写実、明暗の表現力は同じですが、カラバッジョの絵画が力強くダイナミックなものに対して、ラ・トゥールのそれは、簡潔かつ緻密な構図が織り成す、永遠の静寂を感じられる絵画です。今回は模作も多く展示されていますが、どんなに技術的に似せてもラ・トゥールの精神性までは表現できないのだと、真作と模作を比較してみると、強く感じます。

どの絵も忘れがたい印象を残しますが、私が特に引き込まれたのは以下の3枚でした。

1枚目は、今回の展覧会の目玉"ダイヤのエースを持ついかさま師“(ルーブル美術館蔵)。この4人(中央の女主人、カモにされるお金持ちの息子、不正を見てみぬふりをするメイド、いかさま師)の性格描写の的確さ、服の質感の表現の巧みさが際立っています。宗教的な作品で有名なラ・トゥールが、この絵では静寂さの中に今にも動き出しそうな危ういドラマを表現しており、異彩を放つ作品です。

2枚目は"書物のあるマグダラのマリア“(ヒューストン、個人蔵)。マグダラのマリアはもともと娼婦で、イエスと出会って改心し、キリスト没後は、サント・ボームの洞窟で瞑想生活をおくり生涯を閉じたと伝えられています。顔をほとんど髪で覆っている横顔のマグダラのマリアがテーブルの上に置かれた頭蓋骨と対峙する姿が描かれているのですが、ティツィアーノやカラバッジョをはじめ、マグダラのマリアは例外なく美しさと信仰心を兼ね備えた聖女として描かれていますので、彼女の美しい容姿を描いていないというだけでかなり異色の絵です。だからこそ、彼女の改心と救済を、観る人に静かに語りかけてくるのかもしれませんね。

3枚目は"ランタンのある聖セバスティアヌス″。ラ・トゥールはルイ13世付の画家でしたが、この絵を見たルイ13世が、今まで彼の部屋に飾ってあった絵を全て取り外させ、この絵だけを掛けさせるほど、お気に入りの作品だったそうです。残念ながらこの真作は現存しておらず、今回の展示は2作とも模作でした。

全体的に、ずっと対話していたいという気持ちになるような、その場を立ち去りがたい絵が多く、久しぶりに絵の前で見入ってしまったほどでした。細部において徹底的に写実的でありながら、現実をわすれてしまうような静謐な世界へ導いてくれます。このような体験こそ絵画鑑賞の素晴らしさですね。

今回のように、現存するラ・トゥールの描いた絵画の半数に加え、ラ・トゥール自身やアトリエなどによる模作・関連作を含めた絵画30点余りを一度に見られる奇跡的な展覧会は、日本では最初で最後だと言われています。ぜひこの光と闇の織り成す静謐で詩的な世界に触れてみてください。

現在、ラ・トゥール展の他にも、ゴッホ展、ルーブル美術館展などが開催されています。このゴールデンウィーク、絵画の世界に浸ってみるのもいいかもしれませんね!

展覧会の詳細はこちらから。
 
 


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この記事へのコメント
こんにちは。TBありがとうございます!
ラ・トゥール展、本当に異質の展覧会でしたよね。
探偵気分、とエントリータイトルに書いたのですが
関連する作品と真作を比較したり、失われた一枚が
どこにあるのだろうと考えたり、不思議な時間を過ごしました。
マグダラのメアリは印象深い作品でしたね。
17cに描かれた作品だと思うと現代的な彼のスタイルに
驚かされました。
インフォシェルジュさんの書かれたように
素敵な展覧会が揃ったGW!混まなければ良いですねー。
Posted by asakart at May 01, 2005 23:04
TB有難うございました。
私もTB返しをさせて頂きました。
マグダラのマリアは大好きなモティーフのひとつです。
今回出品されていたものも好きですが、うつむいているマリアの絵が一押しです。今回の展覧会にこられなくて残念。
私はヴィオル弾きに焦点を当てましたが、それと同じくらいに12聖人像にはシビれました。会期中にもう一度いく時間があればいいなと思いつつ。
またどうぞお運びくださいませね。
Posted by マユ at May 01, 2005 23:54
 はじめまして。
ランキングから飛んできました。
「コンシェルジュ」というコンセプト、私も興味があり、ブログにこのタイトルを付けています。
大充実のブログですね。またおじゃま致します。
Posted by 転職・天職発見!コンシェルジュ Nako'sコーチングカフェ at May 01, 2005 23:55
こんにちは。
TBありがとうございます。
"書物のあるマグダラのマリア“引き込まれますよね!
今、録画した新日曜美術館(ラ・トゥール展)をみながら、図録を読み返しています。この展覧会は奥が深いなぁなんて。
今のところ、今年観た展覧会では、ラ・トゥール展がイチバンです!
(それも、ずば抜けて!)
TB返しさせていただきます。

いいブログ・タイトルですね、
見習わなくては(^^ゞ
 


Posted by りゅう at May 02, 2005 01:56
いつもコメント&応援クリックありがとうございます。

「アメリカかヨーロッパか」ということでしたが、僕もヨーロッパが好きです。特にローマとパリにはたくさんの思い出がつまっています。
Posted by 24歳ビジネスマン at May 02, 2005 02:04
マユさん、
早速のご訪問とコメントありがとうございました。
うつむいているマリアの絵、知りませんでした。
そうですね、時間があればもう一度展覧会に行きたいくらい素晴らしいものでした。
Posted by インフォシェルジュ at May 02, 2005 06:59
こんにちは。
TBありがとうございます。

昨日の新日曜美術館でも取り上げられていましたね、
また行きたくなりました。
観ておかないと!しっかり!!
Posted by Tak at May 02, 2005 11:55
はじめまして、栗原さんのblogからたどりつきました。
ビジネスからグルメ、芸術と素敵なblogですね。しかも毎日更新されて
いるのにびっくりです。
偶然ですがラ・トゥール展は、私も行きたいと思っていたので、
この連休にでも行こうと思っています。

Posted by good40ty(メンタルバンクで呼び込む幸運のサイクル) at May 02, 2005 12:39
Takさん、

こんにちは!新日曜美術館を観て改めてまた観たくなりました。
TVで紹介されたので、すごく混んでいると思いますが...。

Posted by インフォシェルジュ at May 03, 2005 07:27
上野入れましたか?私が行くといつも
並んでいるので、それ以来あきらめムード
でしたが、内容によって、混む混まないが
あるのかな。
この上野の場合でも金券ショップで売っているのかな。

しかし、インフォシェルジュさんも、勉強家ですね。
Posted by 栗原敏彰 at May 03, 2005 11:25
こんにちは、TBありがとうございます。
併せて、TBさせていただきました。
ラ・トゥール展は意外と人出がなかったですね。
ゴッホ展はGW前に出かけましたが、スゴイ人出。
このGWはルーブル展に行きたいと思いつつ、
スゴイ人出なのだろうと、ちょっと躊躇。
このGWはなかなか天候に恵まれ、
どこも人出が多いのでしょうね。

Posted by opendoor at May 03, 2005 22:46
opendoorさん、
ご訪問、TB、コメントありがとうございます!
そうですね、意外と混んでいなかったのでよかったです。
(でも新日曜美術館で特集されたので、今は混んでいるかもしれないですね)ゴッホ展、ルーブル展も混んでそうですね。

今年は素晴らしい展覧会が多いので、楽しみです。
また遊びにきてください。
Posted by インフォシェルジュ at May 04, 2005 06:39
鑑賞の印象をとてもこまやかに綴られていますね。

関連TBさせていただきました。また見に参ります。
Posted by ike at May 11, 2005 01:27